サカナクション『怪獣』の歌詞の意味や魅力を解説!(曲考察)──病と共に書いた主題歌『怪獣』。サカナクションが辿った音楽の再出発

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はじめに

2024年秋、サカナクションが2年の活動休止を経て放った新曲『怪獣』は、NHKアニメ『チ。-地球の運動について-』の主題歌として注目を集めました。15世紀ヨーロッパを舞台に、“地動説”に命を懸けた人々の信念を描く物語と、それに呼応するかのように制作されたこの楽曲は、ただのアニメタイアップにとどまりません。

この記事では、『怪獣』の歌詞やタイトルに込められた意味を読み解きながら、サカナクションならではの音楽性、そしてボーカル山口一郎の“再出発”とも言えるこの曲の魅力を掘り下げていきます。

タイトルの解説

『怪獣』というタイトルは、一見すると異色のワードに感じられますが、実は非常に象徴的な意味を持っています。

“怪獣”とは、制御不能な存在、自分の内にある恐れや衝動のメタファーあるいは強く、異形で、孤独な存在。社会の中で生きる誰もが抱える「正体の知れない感情」や「異端視される思想」の象徴とも取れます。サカナクションがこのタイトルを選んだこと自体に、楽曲の重厚なテーマ性と、リスナーへの強い問いかけが込められています。

また、『怪獣』というタイトルのインパクトは、アニメ『チ。』の壮大なテーマとも絶妙にリンクします。科学や真理を求めることが「怪物的」であるとされた時代。自分の中の“怪獣”を飼い慣らすように、人間は信念と闘い、進化してきたのかもしれません。

歌詞のテーマ・背景分析

『怪獣』の歌詞には、内面との対話と自己変革の物語が込められています。地動説を唱えた人々が「常識」と戦ったように、私たちも日々「社会」や「自分自身」と闘いながら生きています。

楽曲は、「理性」と「衝動」、「不安」と「希望」、「沈黙」と「叫び」といった二項対立を軸に構成されており、哲学的な深みを持ちながら、感情のリアルをまっすぐに伝えてきます。

また、この曲の背景には、ボーカル山口一郎のうつ病との闘いがあります。2年間の活動休止の後、精神的な葛藤と向き合いながら書かれたこの楽曲は、まさにアーティストとして、そして一人の人間としての“再出発”の記録でもあるのです。

歌詞の解釈と深堀り

歌詞は、以下のようなフレーズで始まります。

何度でも
何度でも叫ぶ
この暗い夜の怪獣になっても
ここに残しておきたいんだよ
この秘密を

ここでの「叫ぶ」は、単なる絶叫ではなく、心の奥底にある「秘密」を誰かに伝えようとする衝動の表現です。たとえ「暗い夜の怪獣」になってしまっても、それでも残したい、語りたいという思いが、ひどく人間的であり、切実です。

中盤では、宇宙的なスケール感が登場します。

だんだん食べる
赤と青の星々
未来から過去

順々と知る
何十螺旋の知恵の輪
解けるまで行こう

星を「食べる」、知識を「知恵の輪」として解いていく。ここに見られるのは、ただの詩的比喩ではなく、「時間」や「記憶」への探求心、そして繰り返しの中での成長や変容の表現です。言葉は静かに、しかし力強く、「知りたい」という衝動を推し進めていきます。

後半の印象的なフレーズ――

この世界は好都合に未完成
僕は知りたいんだ

今何光年も遠く 遠く 遠く叫んで
また怪獣になるんだ

ここでは、「未完成であること」が肯定的に語られます。不完全さゆえに人は学び、探し、叫び、また怪獣になる。自己の存在を「怪獣」というかたちに変えながらも、それは破壊ではなく、理解や伝達のための姿なのです。


『怪獣』というタイトルが持つ強さと孤独、その両方を見事に言葉で描ききっています。哲学的で、宇宙的で、けれどとても人間的。
「叫ぶ」「知る」「散る」という行為の繰り返しは、成長や記憶の蓄積、そして忘却のサイクルまでも内包しており、読者・聴者に多層的な読解を許す構造になっています。

そして、何よりも魅力的なのは、「知りたい」という感情を、破壊的で孤独な“怪獣”という形で描きながら、それを否定せず、むしろ前に進む原動力として受け入れている点です。


山口一郎はInstagramで、以下のように語っています:

鬱病と共生しながら歌を書くという新たなる音楽人生の始まりだ。漫画、アニメの世界観を主題歌としてどう担うか、サカナクションとしてのドキュメンタリーをどう内包し、混ぜ合わせていくかというその2点に鋭く集中した。

原作を何度も熟読し、注釈に出てくる書籍まで読み漁りながら、病と向き合いつつ音楽を紡ぎ出したという事実が、この楽曲にただならぬリアリティを与えています。

『怪獣』は、アニメの主題歌であると同時に、サカナクションというバンドのリアルなドキュメンタリー。そこにある感情の重さは、メロディや音の構成、そして言葉選びの繊細さと相まって、リスナーの心に深く刺さるのです。

魅力のポイント

『怪獣』の最大の魅力は、「音楽がリアルな物語を語る」という点にあります。山口は、「チャートやセールスは全く意識していなかった」と語っていますが、実際にはSpotifyで日本歴代の1日再生回数記録を更新するなど、予想を大きく上回る反響を得ました。

僕が病気になり、活動を休止し、病を患いながらツアーを走らせ、ようやく制作した楽曲だ。そんな中、この結果はみんなの表情や声を非常に明るくさせたのだ。それが本当に本当に嬉しかった。

このコメントからは、バンドとしての再生、そして周囲の支えへの深い感謝が伝わってきます。

またサカナクションは、「マジョリティの中のマイノリティ」「学校のクラスで1人か2人に深く刺さる音楽」を目指してきました。『怪獣』は、その哲学とリアリティが結びついた、まさにサカナクションの集大成とも言える1曲です。

サカナクションの他の楽曲との比較

サカナクションの楽曲は常に、「内省」と「普遍性」のバランスを保ちながら進化してきました。たとえば『アイデンティティ』では個の揺らぎを、『夜の踊り子』では都会の孤独を描いています。

『怪獣』はそれらの延長線上にありながらも、より「個人の闘い」にフォーカスした作品と言えるでしょう。そしてそれが、リスナー一人一人に「自分の中の怪獣」と向き合うきっかけを与えてくれるのです。

まとめ

『怪獣』は、アニメの主題歌という枠を超えて、サカナクションの“今”を映し出したドキュメンタリー的楽曲です。うつ病との共生、仲間との再出発、そして音楽への深い愛情。

この楽曲を通して伝わってくるのは、「生きることは闘いであり、それでも音楽は希望である」というメッセージ。リスナーは、音の中に自分の感情を見出し、共鳴し、そしてまた歩き出すことができる。

サカナクションの音楽が、これからも“マイノリティの光”として輝き続けることを願ってやみません。

参考資料/リンク

最後に

以上、サカナクション『怪獣』についての紹介および解説記事でした。

今回の記事は、私が記事やネット上で調べた情報を基に、自分なりの解釈や考察を加えた内容です。この曲の魅力を少しでも伝えることができていれば幸いです。

サカナクションは、『怪獣』以外にもこれまでに100曲以上の楽曲をリリースしています。ぜひこの曲をきっかけに、他の曲にも耳を傾けてみてください!


引用元一覧:

  • サカナクション『怪獣』 / NF Records

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